ミッシング (2024):映画短評
ミッシング (2024)ライター3人の平均評価: 4.3
感情の天秤
突然、娘が失踪した夫婦とそれに関わる人々の物語。もともとは『空白』からアイデアを派生させたものとのことですが、結果としては別物に仕上がりました。これまでどちらかというと役柄に乗っかてきた印象のあった石原さとみですが、今回は役柄に没入する感じで、とても新鮮であり、さらに彼女の実力を再認識するものでした。中村倫也演じるマスコミ側の視点が入っていて映画が多角的、立体的になった感があります。終盤にそれまでの感情のバランスをガラッと変えるシーンあります。それまで一方通行気味だった感情の天秤が逆転した巧い演出でした。
王道にぶっ刺さる強度と風格
全身全霊の石原さとみが獰猛な「攻め」の芝居で真ん中に立ち、中村倫也、青木崇高、森優作など様々な形の「受け」が繊細に光る。役者陣の素晴らしさが何より際立つ吉田恵輔監督の新作は、『空白』を引き継ぐパノラマ的な群像劇でありつつ、要所の抑制が抜群に効いたヒューマンドラマの名作に仕上がった。
我が子が失踪した母親の話という点ではイーストウッドの『チェンジリング』を連想しつつ、より真正面勝負。「宙吊りの地獄」を真摯に生き続け、さらにメディア風刺を本格的に絡める(それはどこか『空白』と同年公開の『由宇子の天秤』へのアンサーにも思える)。吉田イズムのコアと新規の要素が融合された達成度の高さに今回も感嘆!
娘が失踪という本筋を囲い込むように、いくつもの暗部が噴出する
幼い娘の行方不明事件を軸に起きながら、その周辺の様々な出来事が鋭利なナイフのように、こちらの心に突き刺さってくる。メディアの報道姿勢、性被害、カスタマーハラスメント、他人への無関心…など現代ならではの社会問題をこれでもか、これでもかと絡めてくるあたり、吉田恵輔監督は前作『空白』のスタンスを受け継いでいる。そのせいで、やや本筋のサスペンスや感動部分が散漫になった感じもあるが、監督の問題提起の姿勢には賛同。
石原さとみがこれまでのイメージを覆す熱演に挑んでいるが、そこは想定内。むしろ中村倫也、青木崇高こそ、計算したうえでボーダーを超えるという演技テクニックの最高レベルの見本を示し、絶賛されるべき。