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『エブエブ』『ロストケア』など3月公開映画の評価は?

今月の5つ星

 米アカデミー賞を騒がせている3作に松山ケンイチ長澤まさみの初共演作、カルトホラーの前日譚まで見逃し厳禁の作品をピックアップ。これが3月の5つ星映画だ!

全宇宙をまたにかけた壮大な物語が、思わぬ感動を呼ぶ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』3月3日公開

 主人公のエヴリンは、中国からアメリカに移住して破産寸前のコインランドリーを経営している。国税局からの要請で、煩雑な税金申告の手続きに悪戦苦闘していると、パラレルワールドからやってきた夫によって、並行世界の存在を知らされる。日常から多元宇宙をめぐる超絶展開へと一気に突き進んでいく壮大な物語だが、そこで描かれるのは、母娘の和解と再生を中心としたアジア系移民一家の物語。いくつもの並行世界をめぐった後に「この私」のかけがえのなさを再確認する姿に感動を覚える。

 さまざまな世界に暮らす自分の能力も借りながら、カンフーマスターさながらの能力に目覚め、全人類(全ユニバース?)の命運のために闘うエヴリン。緻密な編集によるスピード感たっぷりな超絶展開は目まぐるしくも、身体全体で体感することで心地よさすら感じられる。主演のミシェル・ヨーの巧みな演じ分けや小ネタの応酬も見どころで、全編にわたる熱量の凄さに圧倒される。(編集部・大内啓輔)

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スピルバーグの原点である記憶を映像化

フェイブルマンズ』3月3日公開

 巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督がいかにして映画の虜となり、映画作りに没頭していったのか、自身を投影した少年を主人公に描く。50年を超えるキャリアの中で初の自伝的作品であり、本年度のアカデミー賞で作品賞を含む7部門でノミネートされた。

 映画との出会いから、家族の問題、ユダヤ系ゆえの差別など、スピルバーグの原体験が描かれる。また、主人公サミーが母親から多大な影響を受けたことは物語の核心にもなっており、その母親にふんしたミシェル・ウィリアムズの存在感は際立っている。特に面白いのは、ホラー、ラブストーリー、アクション、ヒューマンドラマ、青春群像劇など、さまざまなジャンルが一つの作品の中に盛り込まれ、本作を観ただけで何本もの映画を一気に観たような錯覚に陥ること。さらに、巨匠となったスピルバーグが自身を投影した少年時代に作った映画を観られるのは映画ファンにはうれしいおまけだ。仕上がりは、当時より良くなってしまったというのは本人談。(編集部・香取亜希)

結末が怖くなる松山ケンイチと長澤まさみの攻防

ロストケア』3月24日公開

 『そして、バトンは渡された』『老後の資金がありません!』などの前田哲監督がメガホンを取り、葉真中顕の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を映画化した。老人介護の現場で起きた連続殺人事件を追う検事・大友(長澤まさみ)と対峙した、心優しい介護士として周囲に慕われる犯人・斯波(松山ケンイチ)が「自分は老人を殺したのではなく“救った”」と主張し、現代日本が抱える問題にも切り込む危険なやり取りが幕を開ける。

 初共演となった松山と長澤の共演シーンは常に緊張が漂い、お互いの正義をかけた対決は圧巻の仕上がり。日本映画を牽引する俳優二人のさまざまな表情を堪能でき、正義が揺らいで葛藤する大友、自分なりの正義を疑わず圧倒的な説得力を放つ斯波はどちらも秀逸なキャラクターとして輝いている。観終えた時に自らの価値観すら覆しかねない恐怖すら覚える映画だ。(編集部・海江田宗)

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オリジナルを丁寧かつ忠実に英国作品としてリメイク

生きる LIVING』3月31日公開

 巨匠・黒澤明の不朽の名作『生きる』をイギリスを舞台にリメイク。カンヌ国際映画祭のクィア・パルムを受賞しているオリヴァー・ヘルマヌス監督がメガホンを取り、ノーベル賞作家カズオ・イシグロが脚本を務めた。オリジナルと同様の時代設定や形式的なお役所仕事の描写に英国人気質を重ね、セットや小道具、衣装までオリジナルを丁寧かつ忠実にリメイクしようとしているヘルマヌス監督とイシグロの意気込みが感じ取れる。

 オリジナル版では、志村喬の鬼気迫る演技が圧巻だったが、本作の主演ビル・ナイ演じるお堅い英国紳士の役人の、感情を抑えた物静かな演技は見事。余命半年という絶望の淵で、自分の人生を見つめ直してからの演技も絶妙で、生きるとは何かを主人公と共に感じ取ることができる。オリジナルでは、主人公が「ゴンドラの唄」を口ずさむ名シーンがあるが、本作ではビルによる伝統的なスコットランドの「The Rowan Tree」を歌うシーンが、じわりと心にしみる。(編集部・近藤孝一)

違和感なし!26歳に成長した元子役の怪演再び

エスター ファースト・キル』3月31日公開

 児童養護施設から養子として引き取られた少女がもたらす恐怖を描いたカルトホラー『エスター』(2009)の前日譚。極悪非道な9歳の主人公・エスターの正体が明かされた前作から時間を遡り、彼女の誕生秘話が明かされる。特筆すべきは、当時12歳だったイザベル・ファーマンが、26歳でエスターを再演したこと。巧みな話術と予測不能な挙動でトラウマを植え付けた彼女の怪演は健在で、前作から14年の歳月が流れたことを全く感じさせない。CG技術に頼らず、特殊メイクと遠近法を駆使したプラクティカルな撮影術も功を奏したと言える。

 前作ではホラー映画史に残るどんでん返しが用意されていたが、前日譚では物語にさらなるひねりが加わり、エスターの秘密をすでに知っている観客も油断できない。前日譚の製作には「イザベルの復帰以外に方法はなかった」と語るウィリアム・ブレント・ベル監督の判断は正しかったと、誰もが鑑賞後に思うはずだ。(編集部・倉本拓弥)

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