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このカップルはヤバい!切ない逃避行描く「このサイテーな世界の終わり」シーズン1評

厳選!ハマる海外ドラマ

このサイテーな世界の終わり
Netflixオリジナルドラマ「このサイテーな世界の終わり」より

 アメリカの作家チャールズ・フォースマンによるグラフィック・ノベルを、イギリスに舞台を置き換え、イギリスの製作会社がドラマ化。昨年、10月にイギリスのChannel4で放送され、本国以外ではNetflixで今年1月に配信された。このドラマを観た人は、ほとんど予備知識なく入ったのではないだろうか。誰もが知るビッグネームが関わっているわけでもないし、無軌道な若者の青春ドラマに感情移入するのは、ちょっと面倒くさそうと思ってしまう大人は自分だけじゃないと思う。でも、ふてくされたような主人公2人の絵面はスタイリッシュで、映画『ゴーストワールド』(2001)のような感じもして妙にそそられる。何より、「僕はジェームス。17歳。間違いなくサイコパスだ」から始まる本編の設定の訴求力は絶大。そんなふうにして、世界中の面白いドラマに何気なく出会えるのだから、Netflixは海外ドラマファンにとって楽しいんだよなあと、つくづく思う。

 イギリスの田舎町。自分のことをサイコパスだといい、猫や鳥などの小動物を殺していたが、そろそろ人間を殺してみようかと“獲物”を物色するジェームスと、学校にうまく馴染めないでいる転校生アリッサ。一風変わったジェームスが気になりアリッサが声をかけたことから、奇妙なロマンスが幕を開ける。

 父親と2人暮らしのジェームスは、自分とは何の共通点も見出せない父親のことが大嫌い。一方のアリッサは、再婚して赤ちゃんの世話に忙しく、自分に無関心な母親と養父の存在にイライラ。二人とも両親に対してだけでなく、退屈でしかない小さな町や、自分よりも馬鹿に見えてしまう学校の全員に対して怒れる若人だ。この思春期特有のトゲトゲした感じ、あるいは妙に冷めた感覚に思い当たる人は多いに違いない。そんな、自分たちを取り巻く環境に順応できない二人が、ジェームスの父親の車を盗んで逃避行に出る。ジェームスは“獲物”を観察するため、アリッサは退屈さと、純粋に興味を引かれたからだと思うが、要は何もかもが気に入らない現状からの逃げ場を、本能的にお互いの中に見出したということなのだろう。結果論として、それが”運命”というものなのかも。

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このサイテーな世界の終わり
アリッサを演じるジェシカ・バーデンはヨルゴス・ランティモス監督の異色作『ロブスター』などで知られる25歳のイギリス人女優

 各々の心の声がヴォイスオーバーで語られる作りが、よく効いている。双方の視点が入れ替わりながら、彼らの行動と内心考えていることのギャップにおかしみがあるし、二人のぎこちない関係性と本音は、わかるわかると言いたくなるものばかり。表向きは恋愛上級者を装いながら、内心ではジェームスのことを好きかも? と思うアリッサの本音に対して、ジェームスは調子を合わせながらも、内心では異星人でも見るかのようにアリッサを”獲物”として分析している。ほどなくして、今度はジェームスがアリッサに親しみを抱き始めると、アリッサは「やっぱりこいつワケがわからない」と逃げ腰になったり。一方が近づくと相手は離れ、相手が近づこうとすると急に距離を取りたくなる。これって、王道かつ普遍的な恋愛パターンじゃないのか。

 「このサイテーな世界の終わりに」は、設定の奇抜さ、死とシニシズムに満ちた危険な逃避行を描きながら、ドライで、おかしくて、バイオレントで、そして胸が締め付けられるほどスイートで切ないラブストーリーなのだ。誰かを好きになること、人を想う気持ちって、こんなにも純粋で痛みを伴うものだと思い出させてくれる。男女の破滅的な逃避行ものとしては、『テルマ&ルイーズ』(1991)や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)などを引き合いに出した現地評も見かけたが、個人的には、やはり赤いハワイアンシャツを着たジェームスの姿に『トゥルー・ロマンス』(1993)味を感じる。あるいは、『ロミオ&ジュリエット』(1996)だろうか。いずれにせよ、アメリカっぽさを感じるのは、原作がアメリカ人によるものでもあるが、作り手の意図したものだろう。何よりロケーション。イギリスのケント州のシェピー島(とケント州の一部)で撮影された美しい風景は、アメリカ中西部をドライブするロードムービー感たっぷり。ドラマを盛り上げることにも一役買っている。

このサイテーな世界の終わり
ジェームスにふんする22歳のイギリス人俳優アレックス・ロウザーは『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』などに出演

 本作の成功の最大の要因として、主演の二人の魅力、ケミストリーには特筆すべきものがある。アリッサ役のジェシカ・バーデンは、映画『ロブスター』(2015)やドラマ「ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~」(シーズン3)のジャスティン役で記憶している人もいるだろうか。実は本作のパイロット版に当たる短編の「TEOTFW(原題)」(2014)でもアリッサを演じているので、ショウランナーのジョナサン・エントウィッスルらにとっては彼女がベストな選択だったのだろう。鼻っ柱が強くて口が悪く、同時に優しくてさびしんぼうなところが見え見えな反抗期の女子像は、アメリカのティーンズドラマに比べると、いろんな意味において過剰さがなく等身大の魅力。

 対するジェームス役のアレックス・ロウザーが、実に素晴らしい!(パイロット版ではドラマ「レッド・オークス」のクレイグ・ロバーツが演じている)。映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)などに出演しているが、近いところでは「ブラック・ミラー」シーズン3の第3話が印象的。昨年はミニ・シリーズ「ハワーズ・エンド(原題)/ Howards End」でティビー・シュレーゲルを演じているが、本作のような一風変わったエキセントリックなキャラクターがハマり役。冒頭の、なかなか気味の悪いジェームスが、ラストでは嘘みたいにかっこよく、頼もしく見えるほどに、少年から大人の男へと、急速に成長するさまを見事に演じきっている。

このサイテーな世界の終わり
2人の逃避行はどこへ向かうのか……

 昨今の秀作ドラマらしく、音楽もいい。ロックバンド「Blur」のグレアム・コクソンが音楽を担当しており、本作のために「Walling All day」を書き下ろしていて劇中で使われている。選曲はオールディーズやロック等々、どれも使い方も洗練されているのだが、わたしがおおっとなったのは、多分本作で最も残酷でヤバいと思われるシーンに、ブレンダ・リーの「I'm Sorry」がかかるところ。あのシーンが、これほど切なく、そしてドリーミーに描けるとは! ちなみに、本作は1話20分程度。本来ならフラッシュバックで描かれるべき過去や必要な情報もまた、前述のヴォイスオーバーに落とし込むことによってストーリーをもたつかせることがない。5話分の演出も手がけたエントウィッスルは現在33歳、全話の脚本を手がけたチャーリー・コベルは女優としてのキャリアが長い。「このサイテーな世界の終わりに」は、この二人の才能を軸とする作り手のセンスが光る異色のドラメディ(ドラマとコメディーをミックスしたもの)であり、普遍的なラブストーリーの傑作でもある。

「このサイテーな世界の終わり」(原題:The End of the F***ing World)全8話 89点
青春 ★★★★★
恋愛 ★★★★☆
サスペンス ★★★☆☆

視聴方法:
Netflixで独占配信中

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。3月から「小説すばる」で読み物連載スタート!「日経エンタテインメント!」「女性自身」ほかで連載。当サイトでは「名画プレイバック」を担当。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma

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