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俳優・井浦新の美学~本人セレクトの映画解説付き!~

今週のクローズアップ

直木賞作家・三浦しをんの小説に基づく『』(11月25日公開)、新進俳優・成田凌と共演する『ニワトリ★スター』(2018年3月公開)など主演映画が相次ぐ井浦新。俳優のほか、「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」ブランドのディレクター、匠文化機構の代表理事、NHKの「日曜美術館」の司会や写真表現で個展を開催するなど、マルチな才能を発揮する彼の美学に、本人がセレクトした映画を手掛かりに迫ってみた。(取材・文 編集部・石井百合子)

井浦新
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ファッションで影響を受けた映画

183センチの高身長に恵まれ、「MEN'S NON-NO」「smart」などのファッション雑誌やパリコレなどでモデルとして活躍。現在、東京・代々木上原にショップを構えるブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」のディレクターも務める井浦。『蛇にピアス』で彫師シバを演じた際には自ら選んだ衣装を着用するなど、芸能界デビューから今日に至るまで、「ファッション」は井浦のライフワークとなっている。

青春時代に「モッズ」のカッコよさに衝撃を受ける
『さらば青春の光』(1979)

さらば青春の光
『さらば青春の光』World Northal / Photofest / ゲッティイメージズ

英国のロック・グループ、ザ・フーが1973年に発表したアルバム「四重人格」に基づく青春映画。細身のアイビー・スーツに軍モノのロングコートを羽織った“モッズ”グループと、リーゼントの髪をグリースで固めライダースジャケットを羽織ってオートバイを乗り回す“ロッカーズ”の対立を背景に、広告代理店で郵便係をするジミー(フィル・ダニエルズ)ら1960年代のロンドンを生きる若者たちの怒りや焦燥、孤独を描く。

「青春時代にこの映画のファッションを参考にしていました。映画を知ったきっかけは音楽。僕は音楽がすごく好きで、20歳前後のころにはDJもやっていました。当時イギリスのパンクやモッズなどのレコードを買い漁っていて、コレクターの仲間たちと音楽で会話していました。僕はパンク派だったんですが、モッズ派の友人たちが『俺たちのバイブルだ』とこの映画を挙げた。それで観てみたらすっごくかっこよくて。音楽ではパンクが好きで、ボンデージパンツとか買って、一時期は頭をツンツンまではしないけれど、パンクスと古着をミックスして着たりした時期がありました。だけど、この映画を観たらファッションでは俄然モッズがかっこいいと思うようになって。モッズの集会に行ったりはしませんでしたけど、有名なモッズのテーラーでスーツを作って、その上に軍モノのコートを羽織ってサングラスをかけたり。ソフト帽のかぶり方もいろいろなんです。僕は黒人青年のキャラクターが好きだったので、マネして目深にかぶったりしていました。Vespaにも乗りたかったなぁ」

ファッションは外見ではなく内面がつくるもの
『CALLE(カジェ) 54』(2000・劇場未公開)

井浦新

『ベルエポック』(1992)で第66回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したスペインの巨匠フェルナンド・トルエバ監督によるドキュメンタリー。トルエバが影響を受けたラテンジャズ界の大御所たちのライブ公演に同行し、ラテン音楽とミュージシャンたちの姿を追う。

「30歳を過ぎてから観た映画なんですけど僕はジャズが好きで、中でも好きなのがラテンジャズ。もちろん音楽が最高なんですけど、音楽と結びついたファッションというのが好きなんでしょうね。ラテンのどっしりした体形、おなかも出ていて、いわゆる西郷隆盛のような体格の人たちの着こなしがかっこよくて。半そでのシャツに、パナマ帽をかぶっているような。ファッションセンス云々とかじゃなくて、何でもないものを着ているだけなのにさまになってしまう。細身の方はスキニーデニムにシャツをインして、一歩間違えたらダサくなりそうなところを、その人が着ているとなぜか粋なんです。ファッションというのは外から作るものじゃなくて、その人の内面、やっていることによってかっこよくなるものなんだなあと。僕もずっとファッションに携わっていたので、そういった感覚は大事にしているんですけど、彼らから見せつけられたような気がして、改めて自分もそういう人になりたいと思いました」

粋なギャングたちの日本人離れしたスタイル!
『毛の生えた拳銃』(1968)

毛の生えた拳銃
「毛の生えた拳銃」DVD(価格:3800円+税)は発売中 発売元:DIGレーベル(株式会社ディメンション)(C)若松プロダクション・スコーレ株式会社

『裏切りの季節』(1966)、『荒野のダッチワイフ』(1967)などの名作ポルノを監督。鈴木清順若松孝二藤田敏八作品からテレビシリーズ「ルパン三世」(1978)、「ガンバの冒険」(1975)、映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間(クローン)』(1978)などアニメの脚本などで知られる巨匠・大和屋竺によるハードボイルドアクション。主人公は、恋人を襲われ、組織への復讐を図りボスを刺した青年・司郎(吉沢健)。組織のボスは殺し屋の高(麿赤兒)と商(大久保鷹)を雇って報復を命じるが、二人は次第に司郎に奇妙な親しみを持つようになり、事態は意外な方向へ。

「まず、素直に『なんてカッコいい日本映画なんだろう』と衝撃を受けました。『ギャング映画』なんですよ。上品で繊細な大和屋監督の美意識がそのまま表れたような作品だと思うんですけど、大和屋さんが任侠ものを撮るとこんなにかっこいいものになるんだなと。もし20代で観ていたらもっと影響を受けただろうなと思います。麿さん(トレンチコート&ソフト帽)と大久保さん(スーツ&ソフト帽)演じる殺し屋のファッション……。アイテムとしてソフト帽やスーツは昔から好きで、まさに大久保さんのようにスーツにソフト帽を合わせるようなスタイルはやっていたんですけど、今ようやく服に着られない年齢になってきたんじゃないかと。若いときは、特にソフト帽なんかは『パンクやモッズが好きだから』というような見え方になってしまう。でも、年齢を重ねるとともに、かぶり方が身についてくるもので。粋なギャングたちを作るための美意識が感じられて、かっこいいなと思いました」

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生きざまが美しい外国語映画のキャラクター

出世作である『ピンポン』(2002)のクールな卓球少年をはじめ、『20世紀少年』シリーズでは暗殺者、『蛇にピアス』(2008)ではスキンヘッド&顔面ピアス、全身タトゥーの彫師、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2011)では三島由紀夫に、NHKの大河ドラマ「平清盛」(2012)では崇徳上皇に、『悼む人』(2014)では亡霊となって妻につきまとう男にと、変幻自在に化けてきた井浦。そんな彼が愛してやまないキャラクターはこの人でした!

どうしようもなく落ちぶれていて憂いがある
ダークナイト』(2008)のジョーカー

ダークナイト
『ダークナイト』Warner Bros. / Photofest / ゲッティ イメージズ

バットマン ビギンズ』の続編。バットマンの宿敵ジョーカーの登場により混乱に陥ったゴッサム・シティーを守るべく、再びバットマンが死闘を繰り広げる。前作に続いてクリストファー・ノーランがメガホンを取り、クリスチャン・ベイルが主人公ブルース・ウェイン/バットマンを演じる。ジョーカーを演じたヒース・レジャーは、本作撮影終了直後の2008年1月22日に死去。第81回アカデミー賞で助演男優賞に輝いた。

「なんて哀しいんだろうと。僕は『悪役』というふうにはまったく捉えていなかったです。彼を生み出した世の中が『悪』だと思っていましたから。どうしようもないほど落ちぶれているのに、それでもどこか憂いのあるやるせなさみたいなものに惹かれて、ブルース・ウェインよりも人間味を感じたぐらい。演じるヒース・レジャーが、ジョーカーの語られていない部分までも物語っているような気がして、美しくも感じました。みんなが好きなキャラクターだから、なるべく言わないようにこらえてきたんですけど、自宅にはジョーカーの人形なんかがたくさんあります(笑)」

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外国語映画の中で美しいと感じた風景

大の旅好きを公言し、写真家としての活動も目覚ましい井浦。京都国立博物館文化大使、一般社団法人「匠文化機構」の代表理事として日本の伝統文化の価値を広げる活動に尽力する彼は、1年半にわたり日本各地の「寺社」「祭」「工芸」「風景」を写真と文章で記録した紀行本「日本遊行 美の逍遥」(産経新聞出版)、通常は非公開の春日若宮おん祭や式年造替の神事に密着し撮影することを特別に許可された写真集「春日大社 千古の杜」(角川書店)などを刊行。そんな彼の脳裏に焼き付いた、ある異国の風景とは……?

実際に旅してきました!
キャラバン』(1999)のネパール

キャラバン
『キャラバン』Kino International / Photofest / ゲッティ イメージズ

ヒマラヤの大自然を舞台に、生死を賭けたキャラバン(隊を組んで砂漠を通行する商人の一団)に臨む人々の姿を描くドラマ。長老の息子が事故で死亡し、キャラバン隊長の後継者を巡る争いが勃発。二つに分かれて出発したキャラバン隊は、壮絶な試練に見舞われる。第72回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作。

「この映画を観て、実際にネパールに行きました。さすがにエベレストには登れなかったんですけど、ものすごく興味を持って何としてでもネパールに入ってみたい、エベレストを見てみたいと。キャラバン隊に出会えたらいいなと思いましたし、ネパールで作りたいものもあって。ネパールのヤク(ウシ科の動物)の毛でセーターを作りたかったんです。(製品を扱う)工場を探しながら旅をして、ヒマラヤの中までは入っていけませんでしたが、近い村まで行って山を見ることができました」

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リスペクトする映画監督

今もなお囚われ続ける絶対的な存在
若松孝二

1963年に映画『甘い罠』で映画監督としてデビューしてから、エロス、政治やバイオレンスをテーマにした作品を発表してきた若松監督は、交通事故により重傷を負い、2012年10月17日に76歳で死去した。井浦は、第58回ベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)と国際芸術映画評論連盟賞(CICAE賞)をダブル受賞した『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』(2008)のほか、『キャタピラー』(2010)、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2011)、『海燕ホテル・ブルー』(2011)、遺作となった『千年の愉楽』(2012)などに出演。『実録・連合赤軍 ~』では連合赤軍・革命左派の坂口弘を演じる際に丸刈りに、三島が壮絶な最期を遂げるまでの晩年を体現した『11・25自決の日~』では、作品にアルファベット表記の名前がふさわしくないことを理由として、ARATAから井浦新に改名した。

若松孝二
第65回カンヌ国際映画祭にて『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』がある視点部門で上映された若松孝二監督と井浦新 George Pimentel / WireImage / ゲッティ イメージズ

「本当は『すべての映画監督』と答えたいところですが、若松監督は自分を育ててくださった恩師なので絶対的な存在です。よくも悪くも、いまだに若松監督に囚われている。『好きな映画監督』だったら『光』の大森立嗣監督を挙げたいですし、また違ったと思いますが、今はどうしても初めに挙げざるを得ないのが若松監督です」

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主演最新作『光』で美しいと感じるシーン

最新作『光』では、映画『さよなら渓谷』(2013)、WOWOWの連続ドラマ「かなたの子」(2013)に続いて大森立嗣監督と3度目のタッグを組み、哀しい殺人者役に。少年時代に愛する美花のために殺人を犯した信之(井浦)が、事件を目撃した幼なじみの輔(瑛太)、美花(長谷川京子)と再会したことから再び運命を狂わせていく。アドリブのシーンもあり、あるシーンは瑛太の演技力を見込んで事前に知らせず、不意打ちで撮影を敢行したという。

津波が来る前の月光に照らされた夜の海

光
(C) 三浦しをん/集英社・ (C) 2017『光』製作委員会

「信之、輔、美花が幼いころに見た島の風景。月明かりに照らされて一部だけが見られる。波打つ海面が見られて、静寂に包まれている。だけど、僕にとってはただ単に心が落ち着くような画ではなく、むしろ真逆でゾクゾクしました。一言で言うとこの作品では、生命感が一つのキーワードになっているように思います。もちろん、登場人物それぞれの生命感も強烈に伝わってくる作品ですが、自然の持つ生命感や力強さが映し出されているからこそ、それらが相まって美しいのだと思います」

輔の断末魔の叫びに重なる木々

光
(C) 三浦しをん/集英社・ (C) 2017『光』製作委員会

「木々だけだと『自然』でしかないんですけど、そこに輔の断末魔の声がかかることによって、まったく違う景色に思えてくる。あの若さ(34歳)で枯れた味わいを出せる瑛太の美しさにも魅せられます」

アパートの一室にそびえる若い樹木

光
(C) 三浦しをん/集英社・ (C) 2017『光』製作委員会

「陽ざしが差し込んでいて画的にも美しいのですが、死の上に生が成り立っているというコントラストが美しい。映っていないものを含めて想像をすると、えも言われぬ美しさを感じたりもしました」

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