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『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』二宮和也インタビュー

自分の「頑張り」は見せたくない

ラストレシピ

伝説のテレビ番組「料理の鉄人」を手掛けた作家・田中経一の小説を、『おくりびと』(2008)でアカデミー賞外国語映画賞に輝いた滝田洋二郎監督が映画化した『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』。1930年代の満州で天皇の料理番が考案した“幻のフルコース”のレシピを追い、その再現に挑戦しようとする絶対味覚を持つ天才料理人・佐々木充に、二宮和也がふんした。山田洋次監督作品『母と暮せば』(2015)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した演技派・二宮が、いわば物語の語り部となる充役にいかに取り組んだかを語った。

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重要なのは、いかに料理を魅力的に見せるか

ラストレシピ

Q:本作で演じた充は天才料理人です。当然、料理が大きなモチーフともなっていますが、映画のためにどのような準備をされましたか?

主に所作的なことです。包丁の使い方などをメインに習いました。ただ僕の場合、嵐というグループをやっているので、ファンの方々には充というキャラクターの後ろにいる“ニノ”がずっと見えてしまうと思うんです。そこで“料理も一生懸命練習しました”となると、充としてではなく“ニノ、よく頑張ったね、努力したね!”といった見え方になってしまう。でも、そういうことを伝える映画ではないと思うので、どうしてもそれは避けたかったんです。どうしたら料理が素敵に映るか、所作事が綺麗に流れるように映るのか、ということを一番気にかけていました。その流れの中で、オムライス作りは特にしっかり練習しました。(腕を叩いて卵の形を整える)ポンポンもできるようになり、監督もすごく興奮して(笑)。監督やカメラマンさんなどスタッフさんがみな「おいしい、おいしい」と綺麗に平らげてくださって。嬉しかったなぁ(笑)。

ラストレシピ

Q:普段あまり料理をする機会がないと伺いましたが、本作をきっかけに料理に目覚めるようなことは……?

ないです(笑)。本当に食にこだわりがなくて。どうしたらおいしそうに、魅力的に見えるか、とか歴史を背負って生まれてきた(料理)といった映画としてどう見えるのか、ということばかり考えていたので。

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必要以上のことができない「受け」の演技という試練

ラストレシピ

Q:充は、満州で何が起こったのかを聞き出していく役です。監督からどのようなディレクションを受けながら撮影に臨んだのでしょうか。

監督とは連携を取り合って役をつくっていきましたが、常に「全体」としてどう見えているのかを意識し、どこまで物語が進んでいるのかを確認しながら演じていく感じでした。満州に飛んでいくシーンなのか、あるいは満州から帰ってきているシーンなのか、その前後を考えながら演じていました。

Q:天才ゆえに他人にも厳しく、笑顔の少ない充ですが、綾野剛さんが演じた幼なじみの柳沢健とのシーンだけは、くだけた表情を見せますね。それだけに、柳沢が勤める町の中華料理店でのやりとりなどは非常に印象的でした。

そうですね。ああいったシーンは、充と健のキャラクターや関係性を示すものでもあり、割とわかりやすく展開しているように感じたので、監督に“ここはラフに演じていいですよね?”と確認しながら臨みました。台本にちゃんと書き込まれたセリフではありましたが、“別にそれを伝えるつもりがないのに自然と言ってしまう、伝わってしまう”というやり方を、とことん入れていった場面というか。独り言のつもりが相手に伝わってしまっている間柄というイメージで、ああいうかたち(少しくだけた空気)になりました。

ラストレシピ

Q:今回は周りの人々に翻弄、流されていく「受け」の演技に徹した印象ですが、その難しさは?

他の方々はみな何かを画策するために動いたり、特に満州チームはレシピをゼロから作っていく中でいろいろあるのですが、僕は事情を知るダンディーなおじ様たちのところへ行き、「あぁ、なるほど~」と聞いて、「ここから先はこの人に聞いてくれ」と言われて次に行き、「もうそこまで聞いたのか」と言われて続きを聞き……ということがメインだったので(笑)。そういう意味では「大変」と感じることはなかったように思います。いわば僕も観客という立場で、観客と一緒に進んでいく感じでした。

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滝田洋二郎監督のここがスゴい!

Q:観客と同じ目線で聞き役に徹する、というのは、つまり必要以上のことはできないということですよね。そこにストレスはありませんでしたか。

そうなんです、何かこう自分なりのアレンジだったりをやりたくなるものじゃないですか! 人間一日働いていたら、どうしたって“仕事した感”が欲しくなるものですが、今回の役は手応えがあまり感じられないので、時に自然と少し濃い味を出そうとしてしまうんです。その中で若干エゴだったり、麻痺しちゃうところもあるのですが、常に“いい作品を作りたい”というベクトルの延長線上での提案でもあるので、現場では毎日、いろんな提案をさせていただいていました。そこで滝田監督がすごい方だなと思うのは、僕が提案したことがそのシーンに合っていようがいまいが、「違う、それは必要ない」とか「もう少し抑えて」とか言わず、一度やらせてくれるんです。多分監督も、“この子のガス抜きをしてやろう”という感じだったんでしょうね(笑)。ハンドリングが本当に上手な方だな、人間的に大きい人だな、と終わってから気づきました。

完成作の試写を観るのが苦手

ラストレシピ

Q:作品をご覧になっていかがでしたか?

基本的に僕は、完成した映画の試写に行くのが苦手なんです。数か月かけたものが2時間程度になっているのを目の当たりにすると、「そんな頑張りじゃないよ」と落ち込んじゃうんですよ(笑)。普通は、台本に書かれた場面でも本編ではカットされていることがあるんです。今回の場合は本編で使われたのは、ほとんどガスを抜いた後で改めて台本通りにて丁寧に演じたところでした(笑)、それだけにとてもリアリティーのあるものになっていると思いました。満足しています!

Q:滝田監督への厚い信頼がうかがえますね。ご自身にも影響を受けましたか?

僕自身は何も変わらず、自分のやり方でやらせていただきました。ただ、このお話をいただいたとき、何度も(滝田監督のような方と仕事が)できるわけじゃないと直感的に思いましたし、撮影を終えてみて、演者として様々なチャレンジをさせていただいた、とても贅沢な時間だったなと感じています。

これまでクリント・イーストウッドや山田洋次ら、そうそうたる監督たちと仕事をしてきた二宮。同時にアイドルでもある自身の存在が作品にどう影響するかを冷静に見つめる、プロフェッショナルとしての言葉の数々が頼もしく響いた。受けの演技に徹しながらも、劇的な満州篇のドラマが現代篇に流れ込むラストで見せる充の表情に、俳優・二宮和也の真骨頂が見られる。

取材・文:折田千鶴子

映画『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』は11月3日より全国公開

(C) 2017 映画「ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~」製作委員会 (C) 2014 田中経一/幻冬舎

『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』オフィシャルサイト>

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