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ぐるっと!世界の映画祭

河崎実、樋口真嗣ら日本の特撮界の巨匠登場に熱狂!特撮おたくは世界共通 ホラー&ファンタジー映画祭(スペイン)

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【第53回】
 “美食の街”で知られるスペイン・バスク地方のサンセバスチャンは、2016年で第64回を迎えたサンセバスチャン国際映画祭で知られる。だが、その直後に開催されるホラー&ファンタジー映画祭も有名で、スペイン中のオタクが集結するという。しかも毎年ハロウィーンに合わせて開催されるとあって、街はお祭り騒ぎ。第27回(2016年10月29日~11月4日)の熱狂ぶりを映画『大怪獣モノ』で参加した河崎実監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:河崎実、横須賀実)

第27回ホラー&ファンタジー映画祭公式HP

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『バトル・ロワイアル』に観客賞

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シンポジウムに参加した(写真右から)樋口真嗣監督、原口智生監督、河崎実監督、石井良和監督、井口昇監督、そして映画祭のスタッフたち。
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オープニング作品『シン・ゴジラ』に合わせてゴジラがひょっこり顔をだすメイン会場のプリンシパル劇場。この微妙なクオリティも味があってよし!

 サンセバスチャン市の文化部門のサポートを得て1990年に創設。当初は「ホリフィカリィ・モダン(英題) / Horrifically modern」という映画祭名だったが、1992年にホラー映画祭、1993年の第4回から現名になった。そもそも同市は人口約18万人と決して大きい都市ではなく、サンセバスチャン国際映画祭とホラー&ファンタジー映画祭の両方で働いているスタッフも。ある意味、それだけ幅広い映画の知識を持ち合わせているワケだが、サンセバスチャン国際映画祭の現ディレクターのホセ=ルイス・レボルディノスもホラー&ファンタジー映画祭の出身者だ。

 審査員も設けているが、メインは観客の投票による観客賞。第12回には深作欣二監督『バトル・ロワイアル』(2000)、第16回では関口現監督『SURVIVE STYLE5+』(2004)が最優秀作品賞を受賞している。

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観客による最優秀作品賞はヨン・サンホ監督のゾンビ映画『トレイン・トゥ・プサン(英題) / Train to Busan』(韓国)。第69回カンヌ国際映画祭でのミッドナイトスクリーニング上映を皮切りに、世界各国で話題を振りまいた2016年を代表する韓国映画だ。

 第27回はオープニング作品に『シン・ゴジラ』(2016)が上映されたのを皮切りに、「ファンタジック・ジャパン、21世紀」と題した特集上映もあり、日本作品をフィーチャー。さらに2016年は、欧州連合(EU)が指定し、年間を通して文化イベントを多数実施する欧州文化首都にサンセバスチャンが選ばれたこともあってその分の予算がホラー&ファンタジー映画祭にも投入され、河崎監督のほか『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督、『跋扈妖怪伝 牙吉』(2003)の原口智生監督、『自傷戦士ダメージャー』(2015)の井口昇監督、『ゲームマスター』(2015・日本未公開)の石井良和監督、『貞子vs伽椰子』(2016)の白石晃士監督と、豪華6人の監督たちが招待された。「日本でもなかなかこのメンバーで顔を合わせることはないですね。皆、それぞれの分野での殿様ですから」(河崎監督)。

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日刊紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」(※“ギプスコア県のニュース”の意味)に掲載された問題の記事。「Pervertidos del terror nipon」(日本ホラーの変態たち)と書かれているが、記事の大きさが注目度の高さを物語っている。

 現地では後日合流した白石監督を除いた5人でシンポジウムも開催され、日本映画の現状について意見を交わしたという。

 「それが最終的には井口監督が『僕はお尻が好き』だとか、樋口監督が『こういう怪獣が好き』だとかいう話に。それぞれ流派の違う変態ですからね。そう口にしたら、翌日の地元紙の見出しが“日本のホラーの変態たち”になりました(笑)」(河崎監督)。報じた日刊紙「ノティシアス・デ・ギプスコア」によると、笑いが絶えないシンポジウムで盛り上がったようだ。

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“大怪獣モノ”の卵が検閲に引っかかる

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ウクレレえいじと登壇した舞台挨拶の様子。大いに盛り上がった。
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もう一つの上映会場ビクトリア・エウヘニア劇場には、原口智生監督『さくや妖怪伝』(2000)の化け猫が! ホラー&ファンタジー映画祭の常連である原口監督は、今回、『跋扈妖怪伝 牙吉』(2003)で参加。

 河崎監督『大怪獣モノ』は、250年ぶりに大噴火した明神岳の地割れから大怪獣モノが出現し、防衛軍が出動するも打つ手なし。そんなときに超理化学研究所の西郷博士と愛娘が万能細胞セタップXのDNA解析に成功。人体実験と称して草食男子の助手・新田にセタップXを注射すると巨大化に成功。かくして大怪獣モノVS.巨大人間の死闘が始まる-という展開だ。時節に敏感な河崎監督らしく、時事ネタを盛り込みながら『シン・ゴジラ』を意識した絶妙な時期での公開。さらに新田を進化前は斉藤秀翼、強化後はプロレスラーの飯伏幸太が演じるという飛び道具を用意し、特撮+笑いという独自の世界を切り拓いている。

 「『シン・ゴジラ』は傑作ですよ。音源は『ゴジラ』シリーズのオリジナルを使っているとか、東宝マークは円谷(英二)が作ったモノだとか、おたくにしか分からないことが死ぬほど入っている。こちらは同じ怪獣映画でも、馬鹿馬鹿しいところを膨らませている便乗映画です」(河崎監督)。

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上映会場ではゴジラがお出迎え。子供と触れ合う友好的なシーン。

 今回はその『シン・ゴジラ』と同じ、長編映画部門での上映。現地には事務次官役で出演しているWAHAHA本舗のウクレレえいじ、そして“大怪獣モノ”の卵を持参した。「卵を手荷物で持って行ったらパリでの乗り換えの時に、税関で引っかかりました。X線でなんだこれは? となったんでしょうね。カバンを開けさせられましたが、『アートだ』と言って無事に通過しました」(河崎監督)。

 上映は、ハロウィーン前夜の10月30日(日)22時30分からで、場所はメイン会場のプリンシパル劇場。1843年開館のオペラ形式の重厚感ある内装が特徴的な、サンセバスチャンで最も古い劇場だ。そこに大の大人たちが、ワイワイと『大怪獣モノ』見たさに集結した。

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映画祭カタログと今回の映画祭ほかアジア映画を紹介した無料配布の冊子「2000maniacos,」。過激な表紙は……自主規制させていただきます。

 「満席でした。しかもウクレレえいじさんとステージに登場しただけでバカ受け。しかも司会者がえいじさんに、スペインの有名コメディアンのモノマネをしてくれと無茶振りして。仕方なくそれっぽい動きをしたら、それだけで大歓声。僕は、同じスペインで開催される世界三大映画祭の一つ、シッチェス・カタロニア国際映画祭に『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(2008)の時に参加したことがあるのですが、あちらに比べたらサンセバスチャンは大人の文化祭って感じですかね。アテンドも含めて。それでもサンセバスチャンはフランスとの国境に近いので、フランスからもファンが来てくれて、僕のことを『センセイ』って呼ぶんですよ。特撮おたくは世界共通です」(河崎監督)。上映後は、持参した怪獣の卵を「触ると御利益がある」と説明し、観客に触って行ってもらったという。

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世界に根強いファンを持つ河崎映画

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ビクトリア・エウヘニア劇場内には絵画も。サンセバスチャンの街を練り歩くゴジラの図。
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雑誌「2000maniacos,」で紹介された河崎実監督と石井良和監督のインタビュー記事。「よく見ていた大好きなアニメは?」の質問に、河崎監督は「エイトマン」「巨人の星」「タイガーマスク」……と答えている。

 河崎監督のHPには「世界に誇る ニッポンB級バカ映画の巨匠」の一文がある。その言葉通り、河崎監督はこれまでも『いかレスラー』(2004)でカナダ・モントリオールのファンタジア国際映画祭、『コアラ課長』(2005)でオーストラリアで開催されるジャパニーズ・フィルムフェスティバルやハワイ国際映画祭、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』ではなんと世界三大映画祭の一つであるベネチア国際映画祭『日本以外全部沈没』(2006)でドイツ・ニッポンコネクションなど海外映画祭の常連。作品そのものも、『いかレスラー』や『コアラ課長』はフランスで公開され、『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』は松竹が海外セールスを担当し全世界で販売されたという。

 「ファンタスティック系の映画にはマニアがいて、中でも怪獣映画や、パクリ映画にはディープなファンがいるんです。『いかレスラー』はフランスで吹替版も製作され、“マッド・コレクション”としてDVD販売されています。ベネチア国際映画祭へ行った時は、北野武監督のファンがサインをもらいに来ましたからね」(河崎監督)。

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河崎監督にはここで会えます。河崎監督プロデュースのBarルナベース(東京・中野)。毎週金曜日に河崎実ナイトを開催。“おたくの聖地”中野ブロードウェイとのセットでどうぞ。詳細はhttp://luna-base.net/access/access.htm

 それは一方で海外セールスの収益が、河崎映画の屋台骨を支えている現状を示している。国内でDVDやブルーレイなどの販売が頭打ちになっている今、海外に頼らないととても製作費を回収できないのだという。「『日本以外全部沈没』(2006)は、巨匠のおかげで(※原作・筒井康隆、原典・小松左京、監修・実相寺昭雄監督!)のおかげで大ヒットしたんですけどね。今はDVDから配信へと移行していく過渡期なのでしょう。そちらへのセールス展開、また製作費をクラウドファンディングで集める方法も考えていかなければいけないのかなと思っています」(河崎監督)。

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12月3日に行われた横浜・シネマノヴェチェントでの初日イベントには(写真右から)“大怪獣モノ”、桐原教授役の筒井巧、スーツアクターの谷口洋行が参加し、ファンも大盛り上がり。参加者には、“大怪獣モノ”の足型サインがプレゼントされた。

 ただし、活動方針は変わらず。「60年代、70年代の特撮映画を見て育ち、特に東宝映画に対する憧れが強いんです。今のデジタル機器を使ってセンスよく作る若者はいると思うのですが、やっぱり目の前にブツ(特殊美術やセット)がある魅力は捨てがたい」(河崎監督)。確かに河崎作品は、パクリとか便乗が基本だが、思わず笑って大きな心で受け止めてしまうのは、そこに特撮映画にかける河崎監督の“愛”があるからに他ならない。それが海外の特撮ファンにも伝わっているのだろう。

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名門ホテルでロマンチックに

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宿泊先のホテル・デ・ロンドレス・イ・デ・イングラテラからのコンチャ湾の眺め。コンチャとは貝殻の意味。湾の形を指しており、サンセバスチャン国際映画祭の賞の名前・金の貝殻賞もここから付けられている。
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シーフードを売りにするレストランの前には新鮮な魚介が並べられている。地元のチャングロ蟹や、ココチャ(タラの喉肉)はサンセバスチャンの名物。

 サンセバスチャンへは、フランス・パリのシャルル・ド・ゴール空港経由でスペインのビルバオへ。4泊5日の滞在で、宿泊はサンセバスチャンの名所コンチャ湾が見渡せるホテル・デ・ロンドレス・イ・デ・イングラテラ。100年以上の歴史を持ち、サンセバスチャン国際映画祭の時にも多くの監督たちが宿泊している老舗だ。

 「食事は、映画祭スタッフに一般の観光客では味わえない美食倶楽部に連れて行ってもらい、さすが美食の街と言われるだけあり、どれも美味しかった。魚介類も新鮮」(河崎監督)。

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「スター・トレック」シリーズ誕生50周年記念のエキシビジョンを見学。エンタープライズ号の運転席に座ってご満悦の河崎監督。

 会期中は関連イベントの「スター・トレック」シリーズ50周年記念エキシビジョンなども見学したという。「治安がいいので、夜遅く街を歩いても安心。おたくも受け入れてくれる優しい街なのだと思いました」(河崎監督)。

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