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『スイス・アーミー・マン』ダニエル・ラドクリフ 単独インタビュー

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『スイス・アーミー・マン』ダニエル・ラドクリフ 単独インタビュー

死体役にためらいなし!

取材・文:編集部・市川遥 写真:Yukitaka Amemiya

ミュージックビデオ界で名をはせたクリエイティブ・デュオ、ダニエルズが監督・脚本を務めた本作は、無人島で遭難した孤独な青年ハンク(ポール・ダノ)が、スイス・アーミー・ナイフ=十徳ナイフのごとくさまざまな便利機能を備えた死体メニーを相棒に、文明社会に戻ろうと奮闘する姿を描いた奇想天外なドラマ。死体でありながら、おならの勢いで水上バイク代わりになり、体内に雨水を蓄えることもできるメニーを演じたダニエル・ラドクリフが、奇妙だけれど美しい本作の撮影秘話を語った。

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死体役の役づくりとは?

ダニエル・ラドクリフ

Q:びっくりするほど美しくて深い映画でした。映画を観た後ではなぜあなたが本作をやりたかったのかすごく納得がいくのですが、とはいっても死体役です。ためらいは全くなかったのですか?

本当にためらいはなかったんだよ。脚本を読んで、とても変わっているけど素晴らしく、君が言ったようにとても美しいと思った。だから「ああ、僕が死体を演じたら、みんなはどう思うだろう?」とは全く考えず、思ったのは「この映画の一部にならなくちゃ」ということだけ。そして彼ら(監督のダニエルズ)は本当に美しい映画を作り上げた。そのポテンシャルがあることはわかっていたけど、実際に完成した映画を観たら、彼らは体を使ったジョークと、とても美しくて深い物語とをうまく一つにしていると感じたよ。

Q:どのように役づくりをしたのですか? 死体なので瞬きをしてはいけないし、一人では立てないし、話すときに顔の筋肉も使えません。

僕がした役づくりの大部分は、これがリアルに起きたとしたらどんな感じだろう? と想像力を駆使することだった。あと、僕が変な顔をしたり奇妙な声を出したりする動画をダニエルズにたくさん送ったりもしたよ。そしてセットへ行って(死体用の)メイクをされた自分の姿を見たとき、「もう何をやるかはわかっている」と感じた。あまり準備やリサーチはできない役柄だったから、ただ自分の電源を切って、映画の世界に身を委ねたんだ。

Q:カメラが回り始めると動くことができないので、体の向きや位置についてもよく考えなくてはいけなかったのでは?

そうなんだ。できるだけ居心地のよくない姿勢を取るようにしたよ。おかしく見えるのは、やっぱりそういう姿勢だから。もしクルーのメンバーがこっちに来て「大丈夫?」と言ってきたら、僕はいい仕事をしているって感じで。あとは、ポール・ダノ(ハンク役)に頼るところが大きかった。彼は自分のセリフだけでなく、僕の体や頭をどこに動かすのかということも学ばなくてはいけなかった。それはこの映画における楽しいチャレンジの一つで、僕たちは他の俳優とはやったことがないようなとても特別なやり方で一緒に働いたんだ。

そこまでやっちゃう?実際に演じたメニーの機能の数々

ダニエル・ラドクリフ

Q:スクリーンに映るメニーのうち、何パーセントが本当のあなたなのですか?

少なくとも80パーセントは僕だ。丘を転がり落ちるシーンとかはスタントマンだけど、そういうシーンはあまりないから、80パーセントは僕だと言っていいんじゃないかな。残りの20パーセントは、君の後ろに座っている男だよ(笑)。

Q:ヒッ!(※振り返ると背後にダニエルの死体人形が設置されていた)

(笑)。

Q:水上バイクになるシーンも実際に演じたのですか?

ああ! みんなはあれを僕が実際に演じているとは思わないだろうけど、でも僕なんだ。とても誇りに思っているよ。これまで撮影してきた中で最もエキサイティングなシーンの一つだった。なぜなら本作では普通と違って映画音楽を先に作っていたから、僕たちはあのシーンを撮る時、巨大なスピーカーで実際に音楽をかけることができたんだ。だから観客が映画で観て感じるのと全く同じものが、あの日セットにリアルにあったんだ。僕はいかだにうつ伏せになって両端を手でつかんで、水から顔を出すために反り返った。ポールは僕の背中に乗って、歌ったり叫んだりこぶしを突き上げたりしていたと思う。メニーはあの時、彼の役に立てて、島から脱出させてあげられてとても幸せだった。瞬きをしないようにしながら、ほほ笑み続けるのは大変だったけどね。

Q:そのシーンの撮影中、どんな思いがよぎりましたか?

よぎったのは……わからないよ(笑)。本当に素晴らしい日だった。水は少し冷たかったけどエキサイティングで。うん、今こんなことができて僕は幸せだと思ったかな。

Q:口からたくさん水を出すシーンもご自身で?

うん、それも自分でやった。気に入っていることの一つだよ。手作りなんだ。ジャケットの下に管を通してそれを口のところへ持っていった。だから、ものすごい勢いで水を吐き出すことができたんだ。僕がこうすることで誰かがお金を払ってくれるなんて信じられない、と思った瞬間だった(笑)。

Q:森の中を引きずられてもいましたね。

ああ! ポールは僕をブランケットに乗せて引きずり回した。最初は僕だけを引きずっていたんだけど、それってやるのがすごく大変だということがわかってね。あと、ポールが背負っているのはほとんどの時間、ダミーじゃなくて本当の僕だよ。実際の重さを負荷として感じるのはいいことだからと、彼は本当にそうやった。ポールは撮影を終えて、今までになく強靭になったと言っていたよ。毎日、体重125ポンド(約57キロ)の僕を運んでいたわけだから。

Q:お互いにフィジカル面での挑戦があったわけですね。

うん。でもより挑戦的なことに取り組むと、得られる楽しさも増す。体を使った演技を楽しんだよ。ポッター映画でたくさんのスタントをやりながら育ったけど、その間の映画ではあまりやっていなくて。だから楽しかったんだ。

とても美しかったポール・ダノ

ダニエル・ラドクリフ

Q:動きがかなり制限された中での感情表現という面でも、新たな挑戦だったのでは?

顔も目も口も動かすことなくどのようにエモーショナルな物語を示すかというのは、最初、不安に思ったことだった。だけど、それは監督たちの仕事だったと言った方がいいかもしれない。僕らは彼らを信頼し、ただやる。彼らはエモーショナルな瞬間が訪れるべき時、そして訪れるべきでない時というのをよくわかっていたから、僕はただメニーでいられたんだ。エモーショナルなシーンでやりすぎてしまったら、彼らが来て教えてくれる。そうしたら表現を抑えめにしたりしてね。とても面白いプロセスだったよ。

Q:中盤のバスのシーンが本当に素晴らしかったです。どのようにしてあのシーンを作り上げたのですか?

あれは僕たちが初めに撮ったものの一つで、この映画のトーンを決めたシーンだと思う。もしこの映画のうち一つのシーンをピックアップして見せることができるとしたら、バスのシーンを選ぶよ。なぜならあのシーンは観客をおかしくて奇妙でちょっと下品なところから、美しくロマンチックで胸を打つところまで連れて行くから。6分程度でロケーションも変わらないのに。脚本も演出も照明もプロダクションデザインも素晴らしい。あれはロサンゼルスのスタジオに作ったものを森に運んだんじゃないんだよ。僕が知る限り、僕たちがリハーサルをしている間に、クルーが森にある木や枝を見つけてきて作ったんだ。そして1日半か2日かけて撮影した。僕のお気に入りのシーンだよ。

Q:あのシーンのポールはとても美しかったですね。

本当にそう!! とても美しい女の人みたいだった。僕らはそのことにあまり驚かなかったけど。ポール自身も驚いてなかったと思うよ(笑)。


ダニエル・ラドクリフ

ダニエルの取材は『ハリー・ポッター』シリーズ後、初の作品となった『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』(2012)以来だったが、真摯(しんし)に一つ一つの質問に答えるところは変わらないものの、前回よりもずっと自信に満ちあふれ、内側から輝いているようだった。小規模だが、独創的な良作を選び取ってきたダニエル。俳優業の充実ぶりと本作への満足感が見て取れた。

(C) 2016 Ironworks Productions, LLC.

映画『スイス・アーミー・マン』は9月22日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開

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